at the sweet home. 少女が、走る、走る、走る。嬉しそうに、目を細めて。 白い雪と白い息が、少女の目の前に広がる。ふとその視界の先を、淡い水色がかすめる。 ふと思い出し、また嬉しくなる。自然と、足並みも軽やかになっていく。 ホラ。早く、早く、早く。やさしさの、もとへ。 広々とした玄関をくぐった少女が、白い息を弾ませた先には。 「おっかえりーっ」 と、笑顔で迎える少年が、ひとり。 その顔を見たステラはとびきりの笑顔を収め、ぶすっとそっぽを向いて言った。 「・・・・今日も?」 その一言でピンと来たラスティは、いたずらっこのような顔を見せて言った。 「安心しろって。今日は俺のみ」 「ほんとに?」 とたんに満面の笑顔を見せたステラは、しかしすぐに疑いの眼差しを向けてくる。「ウソ言ってどうするんだよ」とラスティが応じるものの、彼女の瞳は未だ疑いの色を含んでいる。 「ホント?」 「ホント。」 「ホント??」 「ホントだって」 しばらくじーっとお互いを睨んでいた2人だったが、この家の主が階段を下りてくる音に反応したステラがすぐに視線を反らしたことによって、いつものように永遠と続くはずだった勝負の決着はあっさりとついた。 ステラは無造作に靴を脱ぎ捨て、ラスティの横を素早く通り過ぎる。 そんなステラに拍子抜けしたラスティは、小さくため息をついて 「靴ぐらい並べていけよなぁ」 と一人ごちながらも、辺りに脱ぎ散らかされた彼女の小さな靴を拾って、並べてやる。 「だって、ステラ大好きだもんっ」 彼の腕にくっついているステラとこの家の主が2人で階段を下りて来るのが目に入ったラスティは、軽く笑みをこぼす。 返すように、彼も眠りから覚めたばかりの顔で淡く微笑む。 しかしどうやら空気が読めていないらしい彼は、ふと真面目な顔になり「ステラ、何が大好きなんだ?」と、怪訝そうに、その整った眉をひそめる。 ・・・・コイツ。昔から、こういうところはホント変わってない。 「「だから」」 腕にくっついているステラはぷう、頬を膨らまし、ラスティは呆れとも苦笑ともつかない顔を浮かべ同時に彼を、指さした。 「お前っしょ」「アスランがっ」 目の前に差し出された2人の指先を交互に見つめ、一瞬ぽかんとしていたアスランだが、寝ぼけていた顔をゆっくりと緩め、微笑んだ。 「ありがとう、ステラ」 「うんっ」 自分の前に立っているこの兄妹を見て、ラスティは苦笑した。 仲がいいという事は、ホントに幸せな事だな、と。 そして、この2人と同じ時間をすごす事のできる自分もまた、ホントに幸せなんだなと。 なぜかしみじみと実感してしまって、同時に珍しく気恥ずかしくなってしまって、ごまかすように言った。 「目、覚めたのか?」 そんなラスティの心情を知ってか知らずか、寝ぼけ眼のアスランは頭をかきながらリビングの方を向いて答える。 「ああ・・・・すまない。夕食は?」 「できてる。今日は久々に3人でのディナーだ」 その一言に敏感に反応したステラが「ホント!?」と、満面の笑みをラスティに向ける。 「だから言っただろーっ?今日は3人だけだって」 なんで、いま、こんな事を思うのかはわからない。 けど確かに、俺たちは幸せ、なんだと思う。こうやって3人で、アスランの家で食卓を囲むことができるなんて。 「今日はなんだ?」 「今日はシチューでございますよ、ご主人様」 そう言いながらおどけてレストランのボーイのようなしぐさをしたラスティを見て、アスランは笑いを必死にこらえながら「その言い方やめろって」と応じる。 「なんでだよー面白いじゃん。アスランのケチー」 「アスラン、ケチじゃない」 「なんでステラが答えるんだよ」 「アスラン、ケチじゃないもん」 いつものように睨み合いを続けそうになった2人を見て苦笑したアスランは、リビングのドアに手をかけながら言った。 「今日はシチューなんだろ?2人とも、冷めるぞ」 ステラとラスティは未だ睨み合いを続けながらも、最後にはお互いの顔を見て、嬉しそうに微笑んだ。 「「はぁーい」」 なんだかとっても、幸せだね。
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